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February 21, 2009

装飾の美しさ、イギリス風暮らし

東京に用事のあった日、一時間ほど余裕ができたので、東京都美術館で開催中の「アーツ&クラフツ展」に足を向けた。

乗り継ぎ駅ごとに悪阻でげぇげぇ吐きながらも、ついつい美術館に向かってしまうのは、体調から言って「次はいつ来られるかわからない」切迫感があるせい。
東京で美術館めぐりだけのために外出する時間がなかなかとれない今、こんな偶発的な「ついで」でもなければ展覧会には行けないもの。
これぞ、という時には(勿論無理にならない程度に)なるべく行っておきたい。

さてアーツ&クラフツ展。
アーツ&クラフツ運動というのは、1880年代頃のイギリスを端緒として、暮らしにまつわる品々への美的な装飾(装飾芸術)を追求した芸術運動であり、建築や工芸、テキスタイルデザインやステンドグラス、宝飾品など、暮らしまわりのあらゆるものを対象として世界的な広がりを見せた。
個人的にはこの運動の中心的人物であるウィリアム・モリスの植物デザインが好きなので、意気揚々と出かけたのだ。
会場で最初に私を迎えてくれたのは、
「美しくないものを家に置いてはいけない」
という言葉。
はっとさせられた。
日々暮らしを営む中で、そんなに真摯に「美しさ」と向き合ったことがあったろうか?と。
こどもに壊されちゃうから…高すぎるから…身分不相応だから…様々な「言い訳」をして、甘んじてばかりいる自分を、ちょっとだけ恥ずかしく思いながら、濃密な美しさの織りなされる展覧会に、足を踏み入れた――。

そこに広がる空間は、居心地の良いプチホテルのようであり、外国の絵本に出てきたおうちのようであり、上品でいながら寛ぎがある、素敵なもの。
ところどころに実際のインテリアの一部を切り取ったような展示コーナーがあり、家具は家の中に置いてあるように配慮され、ステンドグラスは黒っぽい壁面で裏側から光を通して見られ、その展示の工夫のせいもあるのだと思うけれど、細部にまで施された装飾の美しさに目を見張りながらも、なんというか非常に寛いで楽しめた。
(もっとも、相変わらずの「暴走族」ぶりで、じっくり一点一点鑑賞というよりも、目に留まった作品ばかりを見て渡り歩き、信じられないような短時間で出てきてしまうのだけど)

特別気にいった作品は、一見棚と見まごう、素敵な装飾のほどこされたピアノ。
観音開きの扉をあけると、中には鍵盤が!
家具調、というのだろうか、足もとにふたつのペダルを見つけさえしなければ、十分「棚」で通用する。
例えばリビングルームの一角で、中にレコードを入れるのちょうどよいのではないかしら?上に蓄音機でも載せたらぴったりのように思える。
もしも私が大富豪だったら、これと同じピアノを作らせてリビングの片隅に置き、お客様たちをさりげなく驚かせたいと思った。

もちろんモリスのデザインも素晴らしくて、繰り返される植物のパターンを目で追い、離れて全体を味わい、主張があるのにでしゃばらない不思議な存在感を楽しんだ。
タイトルも素敵で、鳥をあしらった有名な作品「いちご泥棒」なんて、なんともセンスを感じる。
こんな家に住めたら…こういう家具を置いたら…この食器で食事したら…そんな途方もない夢を(笑)、少女のように無数に抱いてしまうような、素敵な展覧会だった。

購入した図録は、以前はその名の通り、作品の写真を見てお仕舞いだったけれど、近頃はそこに掲載されている解説が面白い。
帰りの電車でわくわくと解説を読んでいたら、案の定乗り物酔いしてしまい、酷い目に合ってしまった。
そうだ、妊娠中って乗り物酔いしやすかったんだっけ。

それでもあんなに気持ち悪かったのに、展覧会を見ている間は、ちっともそんなこと思い出さなかったなぁ、と不思議に思いながら。

家について無性に読みたくなったのが、榛野なな恵『Papa told me』。
少女漫画だけれど、甘くなく、どちらかと言うとほろ苦いチョコレートのような作品。
イギリス風の暮らしをそのまま東京にうつしたような暮らしが、イギリス好きの作者によって描かれる。
中学生の頃イギリス好きな友人に名前を教わって、大学生の頃哲学をやっている友人に勧められて読んで以来、私の本棚の「永遠の定番」コーナーにずっと居座っている。

イギリスつながり、で、おいしい紅茶を準備して。
寝転んでアーツ&クラフツ展の図録と漫画とを眺めながら、「美しい暮らし」に思いを馳せつつ、ぐったりと過ごす(さすがに悪阻が…)優雅な(?)午後です。

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