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December 08, 2008

作品を朗読していただきました。

12月7日、仙台朗読祭というところで、ぎんのそよかさんが私の掌編作品「手紙」を朗読してくださいました。
2001年以前(時期もはっきり覚えておらず)に書いた作品ながら、忘れずに、再び掘り起こしてくださったぎんのさんと、その縁を結んでくださった森丘理々さんに、深い感謝の念を捧げたく思います。
お二人に敬意を表し、作品を掲載いたします。
この頃書いていたシリーズで、9作品ほどある中のひとつです。
他作品を気にしてくださった方、ご一報いただけましたら、ご覧いただける形でお届けしますので、お気軽にお申し付けください。

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「手紙」


ちかごろ、本ばかり読んでいる。
年の瀬が近付くと、仕事もあまり忙しくないから、時間ができるのである。今日ももう3冊ばかり読んだ。小説と、まだ解明されていない世界のミステリーの本と、難しい本である。難しい本は、あまりに難しいので、ななめに読んだり、さかさに読んだりして、言葉の並びを楽しんだ。充実感があった。
夜の露が窓につけたあとを指でなぞり、半キロ先にあるしょうゆ工場から出るもくもくした煙の出るのを見ていると、窓を叩くものがあった。郵便屋である。全身真っ赤な制服に身をつつみ、赤い傘をさして、空中をここちよさそうに上下している。名前を確認して一通の手紙を手渡すと、上昇気流に乗ってせわしく昇っていった。年の瀬になると彼は忙しくなるのであろう。手紙は、恋人からであった。ごくたまに、手紙がくる。
封をあけると中は空っぽで、ふってみても覗いてみても、何もない。
からかわれたようで賦に落ちないので、台所へいって焼き鮭の残りでお茶漬けをこしらえて、気分転換をする。
本屋に行って目新しいものでも探そうと古いスニーカーに足を突っ込むが、ふと思い付いて鏡台に座り、紅をさすことにする。
鏡台の覆いをとると、体のまわりにほこほこと春の色が漂っている。
右手をあげる。すると春も一緒に右にあがる。首を左に傾けてみる。やはり、春も一緒に傾く。
あまり陽気なので香水を吹き付け、一張羅のつるつるしたワンピースに着替えて紅をさした。靴箱の奥から、滅多にはかないハイヒールまで取り出して外に出たが、春に包まれているとはいえ外はやはり肌寒く、カーディガンを取りに一度戻った。
あのひとも、なかなかオツなたよりをよこすものだ。
上機嫌でいつもより遠回りをして本屋に向かう。冬枯れの木々が羨ましそうに私を見るので、枝に手を触れるとすらりと新芽が顔を出す。公園にさしかかるとゲートボール中の老人が近寄ってきて、なかなか良い春ですな、などと言うのでますますもって、気分が良い。色合いもいい、漂い具合もいい、と老人があまりに褒めるので、気分が良くなるごとに体が軽くなり、気が付くと10センチほど浮いていた。
油を売ってばかりいたので、本屋についた頃にはもう閉店していた。隣の文具店で便せんと封筒を買って帰り、恋人に礼の手紙をしたためた。
明日投函する頃には、春は少し、霞んでいることだろう。

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