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November 24, 2008

すてきな偶然

雨降りの午後。
歌舞伎検定受験に、初めて降り立った明大前駅。
試験の少し前からぽつぽつ降り始め、雨足こそ強くないものの、終了後は本格的に降っていた。

年の瀬もちかい雨降りの午後。
日もじきに暮れる。
通り道、地下にあるカフェが目に入った。
名前は『槐多』。
ブックカフェ、とある。
村山槐多だよね…と気になって、立ち寄ってみた。
さほど広くない店内だけれど、天井がとても高い。
店内の縦横幅よりも、高さの方が大きいに違いない。
その天井いっぱいまで、細長い本棚が誂えられ、美術や写真についての本が隙間なく詰め込まれている。
それと槐多のドローイングが三点。
槐多と名づけたのがよくわかる、飾られた絵と同様、純真でまっすぐでストイックな店だ。
私はカウンターの端っこに腰掛けた。
他に客は2人。
4人がけと2人がけのテーブル席にそれぞれ1人ずつ、1人は外国人で、携帯電話でしきりに話しをしている。うるさくはない。
もう1人は手帳を開いて、じっとなにかを考えこんでいる。

カフェオレを注文した。
店内は無音。
ミルクを温めるガスの火と、コーヒーを注ぐ音、準備される陶器が触れ合う小さな音だけがコンクリートの店内に響く。

本は、読んでもいいんですか。
そう聞くと、私よりも少し年若いくらいの店員は、火にくべた木の実がはぜるように小さく、あ、はい、と返事をした。
アルバイトだろうか。
それとも修行中だろうか。

難波田龍起の『生活の中の美術』という本を手にとった。
遊び紙のところに、著者の署名がある。
生活と人間のあり方と美術について書かれたエッセイだった。
本を手に席に座りなおすと、どっと客がやってきて、カウンターもいっぱいになり、歌舞伎検定帰りらしい2人連れが数組、今日の首尾を話している。

私は本の気になるところだけ飛ばしながら読んで、ゆっくりカフェオレを味わった。
外で1人でカフェに入るなんて随分久しぶりだったから、時間そのものを味わうようにゆっくり過ごした。

お代を払い、店を出ようと歩き始めたとき。
隣の2人組が、見たことのあるDMを手にしているのが見えた。
どう考えても、親しくさせていただいている作家さんの個展のお知らせ。
突然失礼します、と前置きして「もしかしてそのお葉書、高橋菜穂子さんの…」と声がけた相手はなんと、菜穂子さんその人!
お隣は、菜穂子さんのご友人デザイナーKさん!
なんて偶然でしょう。

お二人とも歌舞伎検定帰り。
お互い「満点とれなかったー」なんて報告しあいながら、束の間お話。
カフェは他にもあるのに、同じタイミングで同じようにここを選んでいるのがまた、ご縁というもの。
普段、約束して友人と会うのが難しい昨今、こんな偶然に恵まれて嬉しい限り。
歌舞伎検定、合否よりもなによりも、思いがけずに菜穂子さんたちに会えたのが、嬉しい1日だった。

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