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October 20, 2008

かみさまのいるところ。

歌舞伎座には、「歌舞伎のかみさま」がいるのだという。
新旧複数の歌舞伎俳優のインタビュー記事で、そんなことを読んだ。
他の劇場とはどこか違う、ぴりりと緊張し、かつ暖かく包み込まれるような、不思議な感覚があるのだという。

昨夜、ほぼ一年ぶりに、その「かみさま」のいる、歌舞伎座を訪れた。
演目は、以下の3本。
 本朝廿四孝
   十種香
   狐火
 雪暮夜入谷畦道
   直侍
 英執着獅子

それぞれに、配役がまた、たまらない。
美形ぞろいの美舞台、という印象で、目の保養をたーっぷりとさせていただいた。

本朝廿四孝は、
玉三郎(八重垣姫)×菊之助(武田勝頼)×福助(濡衣)
玉三郎が20年ぶりにつとめる八重垣姫だ。
以前気にした香のかおり、一瞬だけ鼻先をかすめた気がした。
本当にかすかな香りで、八重垣姫が障子の向こう側に姿をあらわす、薄絹が上がった一瞬だけの出来事だった。
それまで絹を隔てて部屋の中を満たしていた香りが、ようやく流れ路を見つけて拡散した、そんな感じだった。
本当に香ったのか、玉三郎の美しさによる錯覚だったのか、それはわからない。
でもそれさえも、酔夢のようで、うっとりと世界に浸ってしまった。

歌舞伎三姫のひとりに数えられる八重垣姫は、一途な恋が演じられる、歌舞伎女方屈指の大役のひとつだそう。
歌舞伎チャンネルで同じ演目を「予習」して望んだのだけど、画面と舞台の違いの大きさなのか演じる俳優の違いなのか、あるいはその両方か、玉三郎の八重垣姫は、本当に夢のように美しかった。
夢幻の世界にぐいと引き寄せられ、ただただ陶酔するしかなかった。

可愛らしい八重垣姫が、愛する勝頼を思うあまり、強さを得ていくのが素敵だった。
父・謙信が勝頼を討とうと追っ手を放ったことを知らせに、追っ手の先回りをしようと凍った湖を渡ろうとするが、氷上を神が通る前にそこを通れば人馬は沈むという伝承があり、渡れない。
一旦は「翅(つばさ)がほしい羽根がほしい。飛んで行きたい。」と崩れ落ちてしまうのだけれど、諏訪法性の兜を手にして神通力を持ち、白狐となって湖を渡っていく。
(そういえば、民俗学の本で読んだことがある。諏訪湖の氷に一直線に亀裂が走ることを「御神渡(おみわたり)」といい、豊作凶作を占うのだとか。)
そんなドラマは、一度でも恋心を抱いたことのある人なら、一途さに共感してしまうだろう。
兜を手にした姫が、敵に囲まれた場面では、それまでのかよわいお姫さまから途端にきりりと強くなり、狐ぶりになって、神通力を発揮する場面も見どころ。
できることなら何度も通いつめたいくらい、素晴らしいお芝居だった!

玉三郎は、ほんとうに、動く美術品のようで、1秒1秒いちいちが美しい。すべてが美しい。
それこそ、かみさまのよう、神々しいばかりの美しさだった。

歌舞伎座の神様―――
江戸から連綿と続いてきた歌舞伎という芸術そのものの中、
今を生きる歌舞伎役者という人間にも、
それから観客である私達のどこかにも、
「歌舞伎」DNAが宿っている気がする。
その全てが劇場でひとつに合わさった時、それが歌舞伎の神様、と言われるのではないだろうか。
そんなことを思った。

幕間で、昼夜10食限定の和風ビーフシチューに舌鼓をうつ。
八丁味噌のお味だろうか、こくがあるのにさっぱりとしていて、まろやかである。
友人I嬢との観劇、こうしてお食事の間に、素敵だったところを話し合うのも、また格別の楽しみ。

次の舞台は、雪暮夜入谷畦道。
直次郎(菊五郎)×三千歳(菊之助)。
直次郎は菊五郎の当たり役のひとつだ。
直次郎の小粋な傘のさし方、蕎麦の食べ方(また、おいしそう~に食べるのだ。食事のすぐあとなのに、思わず「蕎麦食べたい!」と思ってしまうほど…)、てぬぐいの被り方など、こまやかな江戸情緒にあふれているのも魅力。
それから私としては、直次郎の悪事の弟分・暗闇の丑松が、ひとりで遠くへ逃げおおせるか、直次郎を売って告げ口して自分の罪を軽くしてもらうか迷っている場面で、「符丁」を気にしていたのが印象的だった。
実際に江戸の人たちはこうした迷信を大事にし、全く関係のない、通りがかりの人などの会話から、迷っていることを占って決断する場面が多かったと聞く。
舞台で丑松は、そば屋の主人がおかみさんに、隣家に樹のことを「知らせてやんなよ」、と言ったことを聞いて、自分も直次郎のことを「知らせて」(つまり売って)やろうと思い至る。
江戸が、すぐそこにあるような気がした。

本朝廿四孝では立役をつとめる菊之助がこちらでは女方となり、いずれの役での美しさも堪能できるのが、私としては嬉しい限り。
初役でつとめる三千歳花魁、楽しみにしていたのだけど、爽やかでありながらしっとりと美しくて、これまた、うっとりとため息。
悪事が露見して江戸を出なけりゃいけない直次郎に、「そんなら殺していって!」と泣きつく三千歳は、情の厚い(というか気性の激しいというか)女性。
つくづく私は、菊之助の女形が大好きだ。
将来的に、三千歳は福助あたりの配役でも見てみたいものだ。

最後の所作事は、一番驚いた。
これまで舞踊はどこをどうみていいのかわからず、割と苦手項目だったのだけど、演目のせいなのか福助その人の魅力のせいなのか、あるいはとってもいいお席のおかげだったのか、面白く楽しく、ちっとも飽きずに堪能した。
獅子頭、金の扇を上下に二枚重ねて、上に牡丹の花を飾り、扇面の間には歯に見立てた鈴がついている。
かわいい、と言ってしまうと御幣があるが、勇壮な獅子もののイメージから比べると「乙女チック」で素敵。
傾城(遊女)姿での華やかな踊りも、その後の赤い毛をつけた獅子姿も、たまらなく素敵だった。
福助がまたどんな姿も美しい~!

ああほんとに、歌舞伎って、素晴らしいです…!!


さてこの日、あの仕立てあがったばかりのお着物で訪れました。
雪暮夜入谷畦道にひっかけて、「雪」の柄。
そして、菊五郎菊之助で、「菊」の帯。
ここでは見えませんが、袖には「斧琴菊(よきこときく)」の音羽屋柄を仕込んで。
「音羽屋贔屓」スタイルで観劇してきました。
こういう自己満足もまた、楽しいんですね。

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