« ドロップ事件。 | Main | バイリンガルール。 »

September 29, 2007

美しきもの、ちいさきもの。

鼻煙壷、というのをご存知だろうか。
私は先日訪れた琉璃廠でその存在を知った。
以前、骨董品を扱うお店などで何度か目にしていたことはあったのだが、一体何に使うものなのかもあまりよく知らなかった。
これは、中国で清の時代にポピュラーになった、嗅ぎ煙草を入れておくための小物だったという。それがおしゃれの一環として、様々に工夫をこらした美しいものに発展したのだそうだ。

ちょうど、香水のミニチュアボトルくらいの大きさのものから、小ぶりの醤油さしくらいのものまで、いくつかの大きさのものがある。
一旦気にしてみると、骨董もよく扱われる琉璃廠では、ウィンドウに並べられていることが多い。
よく見かけるのは、マッチ箱大の大きさのものだ。
材質も、ガラスのもの、玉など石材を彫ったりくりぬいたりしたもの、象牙や陶器のものなど多種にわたる。

Sn390213この写真はアンティークを扱うお店で写真に取らせていただいた、清時代の陶製のもので、実に繊細な絵が描かれている。
瓢箪型のものには、瓢箪の蔓の他、中国では幸運を運ぶ動物と言われている蝙蝠(「蝠」と「福」が同じ発音だからなのだそう)が、やはり縁起の良い色とされる紅色で描かれている。
また青い方にも、山水を背景にした人物がとても丁寧に描かれている。
お値段はそれぞれ2万円(!)ほどとのこと、もちろん手が届くはずもないが、「あなたがどうしても欲しいなら値段は考えてあげる」と言われたのだが、まだ自分には分不相応な贅沢のような気がして、ご辞退申し上げた。

Sn390216ちょこちょこ歩いてみた中で、私がすっかりはまってしまったのが、この写真のもの。
内画鼻煙壷と言って、一番小さいサイズのもので4センチほどの大きさの壜なのだけど、その中に実に繊細な絵が描かれている。
1センチにも満たない壜の口から筆を入れて、内側に絵を描いている、すごいものなのだ。
絵の内容は花鳥のほか、花と蝶、十二支のもの、パンダのものなど様々。大きさがいくつかあって、大きくなるにつれて中国の偉人らしき賢者、武人のほか、美人が漢詩とともに描かれていたりする。
壜はなんと水晶(!)で出来ていて、中に自分の好きな香りを入れて使うのだと教わった。
Sn390217この黄色い軸のものが筆なのだけど、爪楊枝よりも細い。
一番後ろの碗からまず墨をつけ、次に銅貨?の入っている碗でその墨を調節して、ライトで手元を明るく照らしながら、思い通りの線を描く。
(右端に映っているボールのようなものは、これも水晶で、飾り物だそうだけれど、これも中に絵が描かれている。一番手前のものに、蝶の翅の部分と花の一部が見えるだろうか?)
安いものではないけれど、現代もののせいか、アンティークに比べたらお値段も手頃だ。

Sn390218この繊細な手仕事の主で、思わずマイスターと呼びたくなる、許(XU)氏。
彼のこの内画鼻煙壷(許氏内画芸術)は、海外のアート誌に掲載されたこともあるそうだ。
名刺には「XU FAMILY」と書かれているので、彼の一族が代々この伝統を守っているのかもしれない。
まだお若い方だけれども、このお店にあるものは全て彼の作品だそう。
購入すると、彼の作品であるという証明に、箱に「許氏」と落款が押されるのも、なんだかとても価値あるものをわけていただいたような気分になる。

美しくて、ちいさいもの。
だけれどその存在は、心をゆたかに満たしてくれるような気がする。

(蛇足1)
似たような使い方をされたものが西洋にもある。アンティーク好きの方なら、ご存知かもしれない。
フランスでは「フラコン」または「フラコン・ド・セル」と呼ばれているもので、上流階級のご婦人方が気絶した時のために、中に気付け塩を入れて携帯したと言われるものだ(当時のご婦人方はよく気を失いそうになったらしい。性格がしおらしかったため、とも言われているけれども、一説にはコルセットの締め付けすぎとも…)。
そういえば鼻煙壷の中にもともと入れられていた嗅ぎ煙草は17世紀にヨーロッパから清に伝来したと言われている。古くはカトリーヌ・ド・メディシスが頭痛薬として用い、フランス宮廷をはじめ庶民にまでとして広がった。嗅ぎ煙草は「上品な煙草の楽しみ方」として上流階級にもてはやされ、ナポレオンやマリー・アントワネットも使用したという。
鼻煙壷とフラコン・ド・セルの間に文化的な接点があったかどうかまでは、浅学のためわからないけれども、似たような使われた方をしているのが、なんとも面白いではないか。
ヨーロッパ発祥の嗅ぎ煙草入れ(英語では鼻煙壷はスナッフボトルという)が、東洋の伝統芸術になっているのも、愉快だ!

(蛇足2)
ちなみに調べてみたら、嗅ぎ煙草は現在でも販売されているそうな。
アプリコット味や蜂蜜味、バニラ&フルーツ味や、アイリッシュウイスキー&コーヒー味なんていうものもあって、ちょっと面白そうだ。
粉末を鼻の粘膜につけて使用するもののよう。
煙を吸うわけではないから、喉や肺に負担をかけないし、眠気覚ましなどに使う人もあるそうだ。
もっとも、体内にニコチンを吸収するという点では、従来の煙草同様なので、恒常的な使用は個人的にやや躊躇いがあるのだけど。機会があったら一度くらい、試してみたいものだ。

|

« ドロップ事件。 | Main | バイリンガルール。 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« ドロップ事件。 | Main | バイリンガルール。 »