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January 28, 2007

トマトのにおい。

先日、ふらりと入った薬局でかぜ薬を買い求めた折、店員さんのおばあさんが不意に聞いてきた。
「あなた、トマトのにおいが弱くなったの、分かる?」
私には彼女が何を言っているのか分からず、風邪薬とトマトの関連性もわからず、しどろもどろにいいえ、とだけ答えた。

おばあさんいわく、土の力が弱くなったのだそうである。
「昔は、隣の家でトマトとかきゅうりを切っていると、ああ、トマト(きゅうり)を切っているなとわかるくらい、においがしたもの」なのだそうだ。
それはひとえに土の力に由来し、自然の肥料からたっぷりと栄養を吸い上げた野菜は、においも味も強くて、もちろんその分だけ、栄養もぎゅっとつまっていたという。
「ひところの、5分の1、いや、10分の1くらいしか、今の野菜には栄養がないよ」
と、彼女は続ける。
よくよく聞いていたら、栄養が足らない分を他のもので補給しないと、免疫力が落ちて、風邪がなかなか治らなくなったりするのだ、という結論のために(その先には栄養補給商品の紹介が待っている)トマトが持ち出されたようだった。

しかし、私にしてはなかなかショッキングな内容でもあった。
その「強いにおいのトマト」を食べていた時代というのを、私は知らない。
そんなにおいのするトマトに非常に興味を持った。

以前、どこでだったか、トマトの香りの香水をというのを見たことがある。
野菜が香水になるというのにも驚いたのだが、そんなに香りがするものだろうか、とも、確かに思った。
トマトの香水を好んでつける人というのには未だお目にかかったことがないが、もしかすると、往時の「強いにおいのトマト」を知っている人には、ノスタルジックな香りなのかもしれない。
今、昔ながらの生活というのが見直されはじめ、実際私もそれに興味を持つ一人であるが、まわりの環境があまりにも変わったのかもしれない、とも思う。

江戸人たちは、こぞって四季を愛でたという。
在から出てきた人たちは、狭い江戸という地で、四季の自然を愛でた。
対照的に、自然に囲まれた在では、江戸ほど暦を追った生活はしていなかったらしい。
つまり、身近に自然を失いつつあった江戸の人々がそれを愛でていた。

なんだかこれは、今の私の興味の方向に似ているように思えた。
失いつつあるものを、失わないように愛でる。
なんでもかんでも昔の方が良いとまでは思わないが、「トマトのにおい」のように、失われてしまったものもある中、引き継がれている暮らしの中のちいさな伝統を大事にしたいものだと思った。

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