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October 23, 2006

短編小説「真夏の雪」3

 プシュウと勢い良い音を立てて電車のドアが開くと、乗客たちが一斉に外に出た。車内は急にがらんとして、冷房が効きすぎるのかノースリーブ姿の女の子が身震いしている。
人の波に押し流されるように外へ出ると、むっとした暑さに軽い目眩がした。
滑るように繁華街に流れていく人々の群れからようやく離れると、私は鞄から手紙を取り出した。流れるように書かれた筆文字はとても読めず、その横に鉛筆で小さく書かれた母の注意書きだけが頼りだ。
「…駅から南、海へ向かい、陸と海のまじわるところにて、午後二時…」
 本当に人など来るのか、半信半疑だった。いたずらなのかもしれない。でも、何のために?いや、何のためなどという理由がないのがいたずらだ、と自問自答する。
 駅から海へと南下する道は、ゆるやかな下り坂になっている。雲が多いせいで日差しは強くもないのに、肌にはうっすらと汗が滲み始める。視界に入る空が、歩くごとにだんだんと大きくなってきた。木綿の白いワンピースの裾が湿気の多い空気を含んで足首に絡みつくようになると、空気に潮のにおいが混じり始める。
砂浜に降り立つと、私は陸と海の交わるところ――波打ち際を目指す。日の光に温められた細やかな砂がサンダルに入り込み、一歩ごとに足の裏を柔らかく刺した。
 遠くから押し寄せる波は白い波頭を作り出し、砂浜に打ちつけ轟いてはまた返す。潮風が戯れに強く吹くと、耳元でごうと渦を巻いた。目を閉じ、永遠に繰り返すようなそのリズムに身をゆだねていると、誰かが私の名を呼んだような気がした。

※いかなる理由においても、この作品を無断で転載・放送・複製することを禁じます。

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