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October 30, 2006

短編小説「真夏の雪」10

 目を醒ますと、私は自分の部屋にいた。
 家を出た時のままのワンピース姿で、ベッドに横たわっている。机に無造作に置かれたトートバッグの底には砂粒がついていて、机にも海の余韻をいくらか散らばしている。私はもう一度自分の服装を良く見た。飾りはおろか、針の穴は一つもない。
 窓の外は夜だった。近寄ってみても、そこにある空は、本物の空だった。ちらつく銀の星は、いくら目を凝らしても魚にはならない。
 ノックの音がして、母が顔を覗かせた。
「六花、そろそろご飯よ。」
「母さん、私、いつ帰ってきた。」
「何寝ぼけてるの、夕方ちゃんと帰ってきたでしょ。一時間待ったけど誰も来なかった、いたずらだって怒ってたじゃないの。でもまぁ、六花のお陰でひいおじいちゃんは草葉の陰で喜んでるわよ。早く来なさい、ご飯冷めるわよ。」
 夢を見ていたのだろうか。
 おぼろげな記憶を辿りながらトートバッグの中身を机に出すと、見知らぬ小箱が転がり出てきた。
 海松色のビロウド張りの小箱は、良くみると、松葉色と金色が交互に織り混ざっている。蓋を開けてみると、真綿の上にひとつぶの真珠に似た玉が現れた。
 しかし、真珠のように不透明ではない。今までに見たことがないような、奥まで見通せそうなくらい透き通った感じだが、乳白の雲のようなものがところどころにたちのぼっていてはっきりとは見通せない。ガラス玉とも違う。それよりもずっと軽く、重さをほとんど感じないほどだった。
 薄い薄い貝殻を幾重にも巻きつけたような、儚いけれども美しい姿をしている。
 触れてみるとそれは少し温かく、どこか懐かしい感じがした。
 あの雪の結晶かもしれない、と思う。
 あの出来事が夢なのか、本当に体験したことなのかはわからない。
 でも、確かめなくても良いのだ。
 私は本棚にその小箱をそっと置いて、部屋を出た。廊下の向こうに、両親の話し声が聞こえる。
 家を包み込む夜が、いつもよりも優しく思えた。


                (結)

※この作品は2006/8/27、9/3に、仙台魔法の泉放送劇団によってラジオドラマ放送されました。
※いかなる理由においても、この作品を無断で転載・放送・複製することを禁じます。

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