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August 30, 2006

幼児と美術。

大好きな美術館でボランティアできるとあって、私はウキウキしていた。
大した働きができるわけではないのだけど、一鑑賞者として訪れるのと、スタッフとして訪れるのとでは、気持ちが随分と違う。
たとえて言うならば、遠くから眺めているだけの憧れの君と、急に友達になれたくらいの感じ。

それで、私としては非常に嬉しくて、ワークショップで使う些細な制作物を自分に作らせていただけないかと申し出た。展示作品の、配置地図だ。
立派に作れるわけではないのだけど、自分ができる範囲内の事で、なにかお手伝いがしたかった。
憧れの君に、下手だろうが気持ちをこめて、お弁当を作ってあげたいようなもので。

展示作品の配置をチェックしに、美術館に出かけた。
療育グループの日だったので、はるを一緒に連れて行った。

はるは予想以上に美術館に興味を示した。
よくよく考えてみると、はるの好みに合っているのだ。
まず、広い。
それに、綺麗なものがいっぱいある。
はるはすっかり嬉しくなって、あちこちの絵を覗いては走り回り、気に入った絵にはチュウしようとする。
(最近のはるは、好きなものにチュウをする癖がある)
絵になにかあっては大変!とはるを抱っこすると、動きが制限された怒りに大きい声を出す。
「美術館でしてはいけないこと」の内容を、彼はほぼ全て行っている。
私は展示作品一覧と展示室図を手に、すっかり困り果ててしまった。
見かねた監視員の優しいお姉さんが、はるを抱っこして絵を見せてくれたり、うまく中庭に連れ出して歩かせてくれ、そのお陰で私は仕事を終えることができた。

はるには一枚の気に入った絵があった。
「天使とトビア」という絵。
村井正誠という画家の作品だ。
この絵には、魚が描かれている。
だから、私は、魚好きのはるがその点を気に入ったのだろうと思った。
会場ではチュウしようとするはるを必死におしとどめ、家に帰ってから作品のカードを見せた。
するとはるは、思う存分チュウをする。
でもそれは魚にではなかった。
私には線にしか見えなかった「天使」に、何度も何度もチュウしているのである。
言葉がわからない彼は、この線の正体が「天使」だなんて、知らないはずだ。
天使がどんなものなのかも、わからないはずだ。
なのに、何度もチュウをする。
好ましいものだからこそ、チュウをするのだ。
トビア少年を守護する天使に、はるはチュウを繰り返す。

美術の力を、見せられたような気がした。

ワークショップのスタッフと話していて、日本人の6割が生涯一度も美術館に行かないということを聞いて驚いた。
残念なような、勿体無いような。
教科書的な知識が入らないうちに、自然に美術館に親しむような風潮が生まれれば、もっと美術館を身近に感じられるのかもしれない。
そういう中で絵と出会い、何かが変わっていく人だっているかもしれない。

美術には、力がある。
その強さを改めて、はるに教えられたような気がした。

(ちなみに「天使とトビア」は10月15日まで、神奈川県立近代美術館鎌倉館で観ることが出来ます。
最新情報としては、10月初旬の日曜日には「謎解き宝箱」ワークショップが再び開かれる予定も!!)

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