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August 29, 2006

ふと思い出す神秘。

先日、葉山でのワークショップでの出来事。
プログラムの中で、こんなことが課された。
「過去、一番よく覚えていることをお話しして下さい。痛かったこと、美味しかったこと、なんでも…」
一番、と言われると迷ってしまう。
例えばこども時代とか時間的に区切られたらまた違うのかもしれないが、今まで生きてきた年月の中で一番と言われると、なんだかそこに自分の人生が集約されるようで、とても悩んでしまった。
「痛い」「美味しい」など感覚をたよりに記憶をたぐり、話し始める。
「今までで一番痛かった話です。でもそれは、嫌な感じの痛みではなくて――」
出産の話だ。

今まで友人たちなどに何度となく話していることだが、
改めて思い返してみると気づいたことがあって、自分でも驚いた。

朝8時に出産の気配があって入院、波のように訪れる痛みを感じながら、一晩を過ごした。
5分ごとに訪れる痛みに、眠るに眠れない夜。
翌朝6時前に、もうすぐ生まれるはずと思い、神奈川の旦那さんにすぐ来るように連絡した。
その時点で、今まで感じた痛みの最大値をはるかに上回っているような痛みだった。
予想に反してなかなか生まれず、昼前に旦那さんが産院に着いた時にも、私はただ呻いていた。
痛みがやってくる感覚は、3分毎になっていた。痛みは更に増していた。
それでも、診察を受けると、まだまだ生まれる気配はないという。
そのまま夜がやってきた。
旦那さんと実家の母が交代で、腰をずっと揉んでくれていた。
その手がほんの一瞬止まるだけで激昂するほど、痛かった。
痛みのせいで食指が動かないという経験も初めてした。
じっくり眠れないのと痛みに疲れたのとで、私は夢うつつを行き来していた。
歩くことさえままならない痛みの中、何度となくチェックに行っては、まだ生まれないと戻される。
目と鼻の先の診察室への移動に、5分以上の時間がかかった。
安産になるというカラーセラピーのピンクボトルを握り締めたまま、朦朧としたり痛みに呻いたり。
その繰り返しに夜が更け、やがて明けていく。
その後さらに次の太陽を待ち、入院してから3日後の朝8時にようやく、はるは生まれた。

痛みの波が来ている間、意識が遠のくと、夢を見ていた。
ずっと同じ夢、それは何度目が醒めても、同じ夢だった。
白い綿のような、ふわふわして温かい、しっとりしたものに私は囲まれていた。
壁のようにそれは聳え立ち、私はその中に挟まれている。
前も後ろも阻まれている。
両手でふわふわするその白いものを押し分けながら、ずんずん前に進んでいく。
そんな夢だった。

今思うとあれは、はるの体験そのものだったのではないか。
はるがおなかの中で、生まれようとして頑張っているところを、私は見てきたのではないか。

ワークショップでふとそんな夢のことを思い出した。
今まで、そんなこと、すっかり忘れていた。
人に話したこともない(産後すぐは痛みの印象の方が強くて、そんな夢のことなど、思い出しもしなかったのだ)。
改めて思い出すと、神秘だ。

神秘、というならば、出産にまつわる不思議なことは他にもあった。
入院したのは6月29日。だけど私は、子どもが6月ではなく、7月生まれだといいなぁと思っていた。
私と旦那さんが結婚したのが7月だったので、漠然とそう思った。
結婚して一年目、同じ7月に子どもが生まれるなんて、揃い具合が美しいではないか。
全く親のエゴなのだけど、はるはちゃんとそうやって7月1日に生まれてきた。
里帰りしたばかりのときに、孫を待ち望む父が「1日生まれだといいなぁ」とも言っていた。
父も義理の母も、生まれ月こそ違うが、1日生まれだからだ。
はるはちゃんと知っていて、7月1日に、生まれてきたのではないかとさえ思えた。

葉山のワークショップは、ボランティアしていた一連の活動「謎解き宝箱」の一連のものだったのだけど、美術との関連以外のこんなところにも、ふとした収穫があった。

今はるの寝顔を改めて見ると、
初めて見たはるの泣き顔を思い出す。
あの小さな温もりを思い出す。
育児が大変な時は出産の事を思い出しなさいと、助産師さんが言っていた。
あの経験がそこから先の子どもと自分をつないでくれると。
生命が生まれることは、身近にある奇跡かもしれない。
ふと、そんな神秘の事を、思い出した。

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