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August 03, 2006

掌編小説「四季」より「冬」

暖炉に火をくべると、横に置いた大きな揺り椅子に私は腰をおろした。
窓の外には雪が、はらはらと空から降っている。
椅子の横のポケットから一枚のカードを取り出すと、もう何度も読み返しているそれを、また飽きもせずに読む。嬉しい手紙は、何度読んでもいいものだ。

クリスマス休暇に遊びに行くからと書かれた、サフランの花のカードだ。
サフランは、私が一番好きな花だ。
丹精したサフランは今年もたくさんの美しい花を咲かせ、そこから取れためしべを娘に送った。昔はこれでよくパエリアを作ったものだけれど、一人住まいの今は億劫だ。

二人の孫娘も一緒に来ると、カードには書かれている。
上の孫娘にはつれてくる相手もできたようで、来年にもふたり暮らしが始まりそうだというのだから、喜びも膨らむ。こんなに嬉しいクリスマス休暇は、一体いつ以来だろう。
そこに書かれた日時は日曜日――、そう、今日だ。

大丈夫、もう準備は整っている。
チキンはオーブンに任せたし、冷蔵庫の中ではケーキもお客様を待っている。腕によりをかけてのご馳走は、どれもぬかりなしだ。
近頃はいろいろ忘れっぽくなったけれど、子供たちや孫達の好物だけは絶対に忘れない。
今日だって朝早くから市場に出かけて、みんなの好物をちゃんと仕入れてきた。
とりわけ孫娘の好物であるオレンジは、たっぷりと。
そのまま食べる分はもちろん、朝にのむオレンジジュースや手製のマーマレードの分も、お風呂に浮かべる分までたくさん。

オレンジ色は、孫娘のとびきりの笑顔に似ている。
甘酸っぱいオレンジの香りは、孫娘の明るい笑い声にも似ている。
オレンジを思うとき、私はかわいい孫娘のことを思い出さずにいられない。
オレンジの香りは、いつも気分を明るくしてくれる。

テーブルからオレンジをひとつ手に取り、その香りを胸いっぱいに吸い込んだとき。
チャイムの音と同時にドアがあき、とびきりの笑顔がなだれこんできた。
娘夫婦に、大人びた孫娘と若い青年、そして末の孫娘のオレンジのような笑顔が。
メリークリスマス!
楽しい休暇の、幕開けだ。


※いかなる理由においても、この作品を無断で転載・放送・複製することを禁じます。

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