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January 10, 2006

まあだだよ。

内田百閒という作家がいる。
このひとの本が私は好きだ。
なんと偏屈で頑固で融通の利かない、愛すべき人物であろうと思える。
機知にとんだ文章や会話は、このひとの天性の茶目っ気を感じさせる。ただし本人は少しも相手を笑わせようなどとは思っていない、大真面目なのである、多分。

昨年の入院中、かねてから好きだった百閒先生の随筆を何冊も読んだ。
忍び笑いをもらしたのは数え切れない。
笑うと傷が痛いのに、耐え切れずに大笑いをしてひどい思いもした。

退院した夜、弟がなにかビデオを借りてきてやるという。
黒澤明の「まあだだよ」を頼んだ。

百閒先生と弟子たちの間の心の交流を描いた作品で、これが黒澤の最後の作品となった。(ちなみにその後遺作とされたのが、以前紹介した「夢」である)

2日の間に、立て続けに3度観た。
最初は弟と、次に父と、最後に母と。
何度観ても愉快で、何度観ても胸塞がる。

ぜひ、『百鬼園先生言行録』と『間抜けの実在に関する文献』、『まあだかい』も併せてご一読いただきたい。
本を読んだ後ならば、映画の中に出てくる1シーン1シーンが更に楽しめると思う。
例えば床の間に飾っている掛け軸の由来や、台詞に語られていない背景が、よりぐっと迫ってくる。

百閒の随筆を読んでいると、作家百閒はもとより、人間百閒に惹かれてしまう。
その感覚をそのまま見事に映像化したのが「まあだだよ」と私は思う。
人の情を、軽すぎず、重すぎずに伝えてくれる、名作である。

「まあだだよ」 黒澤明監督

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