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December 28, 2005

不眠日 【俄病人入院記4】

夜は、イヤホンをつけて眠る。
携帯電話に予めダウンロードしておいた音楽を聴きながら眠るのである。全く携帯電話というのはすごい。これ1台で今は大抵のことができてしまう。私が普段使う機能だけでも、電話やメールはもちろんのこと、音楽のプレーヤーとなり、電子書籍が読め、ナビになり、ゲーム機になり、インターネットを介してタウンページにもなるし、ニュースや天気予報、地震震度の情報取得も、時には買い物さえできてしまう。自在である。

話しがわき道にそれたので、本筋に戻そう。そういうわけで、携帯で音楽を聴いて眠る。(何故かということは、数日前の「鳴神姫」をご参照いただきたい。)曲の内容は、クラシックや映画音楽、しっとりとしたジャズなどである。眠るためのものなので穏やかなものばかりをいれているが、中には少々派手なオーケストレーションのものもある。

こんなことがあった。
三代目鳴神姫に悩まされて音楽を聴きながら浅い眠りの中を漂っていると、派手なオーケストレーションの一節の中に更に大きな音がいくつも聞こえるのである。何か重たそうなものをごろごろと転がしている音と、小さいながらしきりに聞こえる人の声と足音。何人も何人も出入りして、何やら逼迫した空気が充満している。
はじめは同室の誰かが急変したのかと思ったが、カーテンの中から様子を窺っているとどうも隣のベッドに新しい患者が入ったようなのだ。救急棟は他にある筈だが、何かの理由があって一般病棟に入ってきたのだろうか。

看護婦は入れかわり立ちかわり、パタパタと新患のために働いている。そのうちに耳元の音楽は静かなピアノ曲に変わり、状況がはっきりと掴める様になってきた。看護婦がその新しい患者に連絡先や所持品をきいているところを見ると、行き倒れなのだろうか。復唱する電話番号は、岩手県の番号だった。

パチンと音がして隣のベッドには読書灯がつけられ、まぶたの裏側が明るくなったので渋々目をあけた。

現実の世界に意識を戻すと、真っ先に刺すような痛みが襲ってきた。
こりゃたまらんと起き上がり、ナースステーションで痛み止めの薬をもらった。
新しい患者のことで手も頭もいっぱいになっている看護婦たちは、新患の隣のベッドが私で、その騒ぎの中で目を醒ましたことには気が向かぬようで、忙しい時に別の要件を言いつけられたような対応だったので、済まないような気がした。
そのまま病室には帰らずに、面会コーナーで豆乳を続けざまに2本飲んだ。冷たい液体が撫でていくと、ヒリヒリと熱いような痛みも少し和らぐような気がした。消灯後も面会コーナーは、自動販売機の煌々とした光に照らされて明るく、窓の外にはそろそろ見慣れてきた夜景が横たわっていた。街の中心部に近いせいなのか、午前1時を過ぎたというのに往来の車が絶えず行きかう。そのほとんどがタクシーで、そういえば忘年会のシーズンなのだと思い出した。

一時間ほどで戻った病室には、相変わらず鳴神姫の鼾の音が、夜闇に途切れ途切れに響いていた。新患の容態が落ち着いたのか、先ほどの看護婦が「おこしちゃったわね」と少し困ったような申し訳ないような顔をして通っていった。

ようやくのことで寝入ったら、午前三時半、大地が震撼した。
宮城県沖地震であった。
ベッドと建物のきしむ中、冴えてしまった目で私は、しばし途方にくれる。

うがいに立つと、あちこちの安全確認に歩いていた看護婦と目が合った。
「眠れない日だね」
「こんな日もあります」

ほんとうに、いろいろな病院生活の中、こんな日も、ある。

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Comments

今年も、もうすぐ・・・

年の瀬の入院日誌、
あら、まあ、の連続です。

その後、順調に回復していますか?
もちろん、だと信じていますが。

携帯の話も、しかり・・・
(そんなに沢山のことが
できる優れものだとは・・・
あれ?歳がばれる?)

愉快な仲間たちの冬眠もよう、
いいですね。

当分は、このような
冬眠状態で養生なさいませ。

ハルちゃまは、いかがでしょうか?

Posted by: fj | December 29, 2005 at 01:57 AM

ありがとうございます、ご心配おかけしています。
おかげさまで、何とか順調に回復してきました。

「食べちゃダメ」と言われていた好物のエビフライも、正月には食べられそうです。(衣がザクザクしているものや、おせんべいなど、とげとげのものはまだ食べられないのです。)
一日4回だった痛み止めも、日に1度か2度で良いようになりました。
ドクターストップだったお酒も、コップに1杯なら大丈夫のようで、お正月のお屠蘇は楽しめそうです。

年内は、7回連載の入院記をお送りする予定です。
その後は…早くも来年なのですね。

年の瀬で旦那さんも仙台に帰省し、いよいよ年おくり、年むかえの季節だなぁと実感しています。
昨日は約ひと月ぶりにパパに会えて、はるも大喜びでした。
はるの成長ぶりにパパは驚くやら喜ぶやら。

良いお年をお迎えくださいませね。

Posted by: zok | December 29, 2005 at 11:08 AM

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