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December 27, 2005

針騒動 【俄病人入院記3】

今にしては笑い話になるが、手術直後から数日は気持ちが定まらなかった。
というのも、執刀医が手術中に針を一本なくした、というのである。
麻酔が醒めかけの様子をうっすらと覚えている。一同当惑してがやがやとしていた。何かトラブルが起こったことは察しがついた。そのうちに執刀医が耳元で「口の中に硬いものがあったら飲み込まないで出してください」と、かなり取り乱した声を出した。
平静であればクワッと目を見開いて叱責のひとつも与えたいところであったが、麻酔の影響なのか体中震えるほどの吐き気に見舞われていたので諦めた。針がない、というのは周囲のがやがやの中から聞き取れた。

そんなわけで、とうの手術の成り行きよりもそちらのインパクトが大きく、仮に体内に針があったら…という思いではかはかとした。当の医者の方も、廊下などで顔を合わせると会釈してそそくさと去っていったから、同じような気持ちであったろうと思われる。

仮に体内に針があったとしたら、その針がもぐりこんでいってしまったら、血液の流れに乗って心臓に到達し、穴があいて失血死することになる。そうなれば立派な医療事故で、あちらさんも医師生命が危険にさらされるかもしれないわけなのだが、私は生命そのものを絶たれることになるわけで、お互い腫れ物に触るような、そんな数日間であった。たまに「違和感や変な痛みはありませんか」と聞かれたが、痛みも違和感もあるが、それが手術の傷の通常の痛みなのか針が刺さっていることによるものなのか、違いがわからずに悶々とする日々。夜に息子の写真を見つつ涙したのも一度や二度ではなかった。
しかしそれもほんの数日。
日が経つにつれて体内に針がないことを実感として得ることもできた。なにより生きているのであるから、体内に針はなかっただろうと思える。執刀医からも当日の状況をより詳しく聞くこともできて、ほっと一息ついた。

多少のトラブルはあったものの、術後の痛みは想像していたよりは大分楽であった。
こんな程度ならお茶の子さいさい、と鷹をくくっていた途端にヒリヒリチクチク痛み出したのは、一般に痛みのピークと言われる時期を越して、針の不安が消えた頃とちょうど重なっていた。

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