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October 20, 2005

掌編小説 台風

 友人からの沖縄土産に、シーサーをもらった。
 手のひらに乗るくらいの大きさのそれを玄関に飾っておいたが、見るたびに片方が倒れている。最初は直していたものの、面倒がってそのまま放って置くようになった。
 ニュースでは大きな台風が来ることを報道していた。一軒家の一人暮らしはこういうときに心細い。雨戸をしっかり閉めて早めに床についたが、強くなる雨はざあざあと雨戸に叩きつけ、瀧の中に寝ているような錯覚に見舞われながら眠りに落ちた。

 目を醒ますと、あたりは静かになっていた。
 嵐が去ったのだろうと雨戸を開けた先には海があった。
 庭も、近所の家もすべてなくなり、月に照らされた銀色の波がゆらりと揺らめいているのだった。あまりの出来事にその場に座り込んでいると、ぎいこ、ぎいこと艪を漕ぐ音がする。小さな船から二人の子どもが私に手をさし伸ばしていた。
 小さな手に引かれて船に乗り後ろを見ると家はもうそこになく、前にも後ろにも闇に濡れた静かな海があるだけだった。言葉を交わす代わりに彼らは、くすくすと忍び笑いを漏らした。子どもは、どこかで見たことがある気がしたが、思い出せなかった。
 やがて子ども達は艪を漕ぐのを止め、船は波に身を委ねた。風が少しずつ強くなり、船は木の葉のようにくるくると回った。しがみつく間もなく、突風に吹かれて私は波間に落ちた。青い青い波の上で月が揺らめいているのが見えた。子ども達が私を覗き込みながら、手を振っていた。彼らは嬉しそうに笑っているようだった。

 気がつくと、自分の部屋だった。雨戸は閉まったままで、その外にはいつもの風景があった。テレビには家の近所の被害が映っていた。慌てて調べて見たが、うちには被害は何もなかった。不思議なほどに何も、庭の花の一本に至るまで無事であった。
 玄関では、倒れていたはずのシーサーが、きちんと立っている。じっと見ると、その顔は夕べの子ども達に良く似ていた。
 あとから聞くところによると、シーサーは家の守り神だという。
 どこからか、あのしのび笑いが聞こえてくるような気がした。

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