« 掌編小説 花火狩り〔1〕 | Main | コミックばとん »

August 28, 2005

掌編小説 花火狩り〔2〕

 鈴が鳴る度に川はぐんぐんと広がり、対岸の竹の梢が遠のいて、ついには見えなくなった。川はどこまでもどこまでも広がっていく。
 更に鈴が鳴ると、向こうからぼうっと白い何かが飛んできた。闇の中をゆっくり近づいてくるそれに目をこらすと、鵲なのだった。一羽が男のもとにたどり着くと、続いてまた一羽飛来した。つぎからつぎへと鵲は飛んできた。
 鵲たちは連なって橋になり、その上を数人の行列がやってくるのが見えた。
 まず日傘をさした童女が先に立ち、晴れ着姿の美しい姫君、そして三方に酒や食べ物や着物を捧げ持った女たちが続いた。
 こちらの岸に一行がたどり着くと、一斉に拍手が巻き起こる。男が姫君の手をとると、いっそう高く鳴り響いた。わたしたちも一緒に、手が痛くなるほどに拍手をした。
 二人はじっと見詰め合って、ただ頷きあった。

 二人を囲んで宴が始まった。
 姫君は一年かけて織ったのだという新しい着物を男に着せ、彼はとても喜んだ。男が喜ぶと、彼の取り巻きの男たちも嬉しそうにそれを見ていた。男が姫君に牛車を贈ると、再び拍手が起こった。姫君の供のものたちは男達に酒や食べ物を振舞い、その場所は明るく楽しげな声に溢れた。中央に置かれた重箱も開けられた。中には何も入っていないように見えるのだが、皆そこに箸を伸ばし、口元に持っていっては実に満足げな顔をした。

 そろそろだと皆が口々に話しはじめた頃、腹に響くような大きな音を合図に、川が紅や碧に染まった。朝顔と夕顔が歓声をあげて川岸に走り寄る。
 ふたりが指し示すままに川を覗きこむと、川の底で花火がいくつも、玉のようにはじけては消えていくのだった。川底で揺らめく花火は、空に浮かぶそれよりも涼やかに見えた。
 流れ行く星屑に反射して、川は色とりどりになった。川が紅に染まれば夕顔が舞い、緑に染まれば朝顔が舞う。両方が舞うとわたしも舞う。それを見た男達や女達が川岸にやってきて一緒に舞う。笑い声のさざめく中、わたしたちは花火を楽しんだ。夜も更け、ひとつひとつの花火の間隔が明くようになると、朝顔が袂から瓢箪を取り出した。
 これで星を掬って帰りましょう。
 すぐに掬おうとするのを制され、花火がはじける頃を見計らって、瓢箪を満たした。
 わたしたちは再び蔓を伝い、家の庭に戻った。
 遅い時間なのにふたりとも眠そうな様子も見せずに、帰っていく。去り際、また帯年も遊ぼうねと言い残したのは、朝顔だったか夕顔だったか。
 ふたりを見送ってから、のっそりと茶の間に座り込み、瓢箪を傾けた。青い切子のぐい飲みに注ぐと、星屑はその光を受けて青く青くきらりと揺らめいた。
 ほんの一瞬通り過ぎる星屑の余韻をゆっくりと味わいながら、不思議な出来事を思い返す。毎年この時期に天の上で行われていたであろうささやかな宴を思うと、いつの間にか杯が進んだ。
 瓢箪の中身がなくなったようなので片目を瞑って覗いてみると、中の闇では花火が、音もなくあがっていた。
いつまでもいつまでもあがっていた。
                                     (結)

|

« 掌編小説 花火狩り〔1〕 | Main | コミックばとん »

Comments

星屑のキラキラ輝く
天に上の小さな川・・・

その底に見える花火・・・・・

そうか、そういう花火も
あるんだな~。

いつかみたいなぁ~。

その瓢箪、貸してください、いつか、ね。

Posted by: fj | August 30, 2005 at 02:01 AM

コメント、ありがとうございます。
いつかみんなで一緒に、見に行きましょう。
瓢箪を持って…ね。

Posted by: zok | August 30, 2005 at 01:45 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/83670/5561821

Listed below are links to weblogs that reference 掌編小説 花火狩り〔2〕:

« 掌編小説 花火狩り〔1〕 | Main | コミックばとん »