« お知らせ | Main | 骨董市へ。 »

July 10, 2005

花遊び

今年はじめての蒲公英文(たんぽぽふみ)が届いた。綿帽子の下、種子をくるむようにつけられた文をひらく。
花遊び、お越しください。
もうそんな季節なのだなぁとしみじみする。種を植木鉢に入れると、直ぐに蒲公英の花が咲いた。明日には綿毛になっているだろう。花びらを数えているうちに、うつらうつらと寝入った。
目をさますと、まだ夜明け前であった。月が名残惜しそうに天の頂をみつめている。通りのどの家もまだ人の気配はなく静まりかえり、花遊びが始まっているような様子はないのだが、こころがざわざわと騒ぎ立てるので、薄い外套を手に家を出た。

 鎮守の森は濃緑(こいみどり)に包まれ、あかりがないとすぐ先が見えない。背(せい)の高い木々に朧月の灯りはほそぼそとしか届かず、足元もおぼつかない。
 遊び場までの道はほどなく見つかった。道の両側には提灯がかけられはじめていた。灯りでもなければとても道とは呼べないけもの道である。白んでいく空をぼんやりと見つめながら歩いた。遊び場が近くなると、露店が立ち並び始める。組み立てている段階の店がほとんどだが、まばらに開いているところもある。
さらに進むと、目の前にぽっと森が開け、明けかかった空の光の下に色とりどりの花たちがより集まって世間話に興じているところだった。

 それじゃ今日は辛夷(こぶし)さんも来るのかね
 ええ、なんでも今年はたくさん娘御が咲くとかで、ご機嫌よろしゅうございますよ
 木花(このはな)太夫の一座はまだかい
 東風(こち)に乗ってお越しあそばすそうで
 おや、もうお客がおいでだよ
 
こちらへどうぞ、お席をつくりますよ。器量よしの春紫苑(はるじおん)がやってきて、わたしは広場のちょうど真ん中に座らされた。いくぶんかへこんだその場所を取り囲むようにして、話をしていた花たちも座り始める。案内された場所に綿の花を集めた絨毯が敷かれ、その肌ざわりの柔らかさにわたしはまどろみそうになった。取れたてのあさつゆが振舞われ、その軽やかな甘みに、惑うような心持になる。夢か、現か。芽吹き時のこころのざわめきがするすると伸びていく。
隣の老水仙とあさつゆを酌み交わしている間に、方々から花たちが集まり始めた。着飾った牡丹がすらりとした雪柳を伴って現れ、冴えた香りをあたり一面に漂わせながら貴婦人風の辛夷が娘をたくさん引き連れてやって来た。

 朝焼けが空を染める中、きらきらと光る風に乗り、雪のようにほの白いものがあたりにちらつき始めた。手にとって見ると、桜の花びらなのであった。始めはちらほらと、それが数を増やし、ついには周りがよく見えぬほどに、それはひらめいた。やがて吹雪の中から雅やかな婦人が現れ、続いてさまざまな濃淡の桜色の衣装に身を包んだひとびとが出てきた。
木花太夫じゃ、と老水仙がいった。いよいよ始まろうよ。
太夫が目配せをすると控えていた染井吉野と菊花桜が舞の衣裳を打ち掛ける。袖は50枚もあろうかという縦縞の袖飾りで飾られ、太夫が手を動かすたびに軽やかに揺れた。

連翹(れんぎょう)がひゃらりと楽を奏でると小手毬が鼓を打ち菫たちが歌い、それに合わせて木花太夫が袖飾りのついた手をひらひらと舞わせる。他の桜たちも続いて舞い踊り、くるくると回るたびに花びらが舞い散った。
やすらえ、やすらえ
菫たちの声は高くなり、辛夷の娘たちが歌いながら舞いに加わると、老水仙も立ち上がって連なった。桜の一座の舞に誘われて、わたしもやすらえ、やすらえと声を張り上げながら、大地を踏んで踊った。夢かうつつかわからぬまま、あたりが白いのが朝の白さなのか花吹雪なのかわからぬままに踊った。
舞えば舞うほどに花びらがひらめき、風景を埋め尽くした。

|

« お知らせ | Main | 骨董市へ。 »

Comments

色んな花たちが現れて、とても幻想的な世界観に酔いしれました…
個人的には、菫が出てきたのがとっても嬉しかった(笑)

Posted by: レイコ | July 11, 2005 at 10:59 PM

やすらえ、やすらえ・・・

ほの暗い明けの天。

さくら花の舞い散る様。

花遊び・・・

美しい日本画を観させて
頂きました。

Posted by: fj | July 12, 2005 at 01:16 AM

ご感想をありがとうございます。
また書き上げたらアップしていきますので、読んでくださったら嬉しいです。

Posted by: zok | July 12, 2005 at 11:32 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/83670/4866557

Listed below are links to weblogs that reference 花遊び:

« お知らせ | Main | 骨董市へ。 »